今回もブログ移行記事を編集したものです。
記事を書くことになった背景
ただまずは前回の記事にて書きました、記事のテーマがこんなところになった経緯をば。
講演にてRyan A. Shenvi先生の話を聞き、Shenvi先生が行ってきたオレフィンの酸化反応についてまとめたいなと思いました。
読もうとした矢先、Refにシリルラジカルについての文献を発見。
KIEを測っていました。
そこでまたその文献中にCIDNPの文献が出てきました。
CIDNPの元文献を読んでいると、アルキルリチウムとアルキルハライドがラジカル反応であると述べているではありませんか。
なんだと!?と思いその文献を辿ると、なんだかそもそもアルキルリチウム自体の分解反応がラジカルである可能性もあるではないか、となったのが前回です。
では今回は1つもどり
『ハロゲン化アルキルとアルキルリチウムとの反応はラジカル反応?それともアニオン性の求核置換反応?』
について、まとめてみようと思います。
背景
至って基礎的なことですがこれが考えてみると非常に深い…。
では文献とともに追っていきましょう。
まず私が見つけた元の文献です。ハロゲン化アルキルとアルキルリチウムとの反応がラジカル反応であると提唱していたのは、前回の記事でのシリーズ6報を書かれているBryce-Smith先生です。前回シリーズ5報で止まっておりましたが、6報目にそのことが書かれています。
まず私が見つけた元の文献です。ハロゲン化アルキルとアルキルリチウムとの反応がラジカル反応であると提唱していたのは、前回の記事でのシリーズ6報を書かれているBryce-Smith先生です。前回シリーズ5報で止まっておりましたが、6報目にそのことが書かれています。
『Organometallic compounds of the alkali metals. Part VI. Evidence for the formation of free alkyl radicals during certain Wurtz reactions. Homolytic reactions between alkyl-lithium compounds and alkyl halides.』
(J. Chem. Soc., 1955, 0, 1603. DOI: 10.1039/JR9560001603)
(J. Chem. Soc., 1955, 0, 1603. DOI: 10.1039/JR9560001603)
まず本論文に記載されている先行研究の話から。
1932年には既にPolanyiらによってアルキルハライドと金属ナトリウムの蒸気から減圧高温下でフリーのアルキルラジカルが生じることが報告されています。
それまで、アルキルハライドと金属との反応によるウルツカップリング反応では二つの反応機構が提唱されていました。
Mechanism Aは最初1922年にSchulubachとGoesらによって提唱されました。
先に述べた文献やUlmann反応はフリーラジカル機構で進行しています。
また、BachmannとClarkeらがクロロベンゼンと金属ナトリウムとの反応からo-テルフェニルやトリフェニレンが得られたことを報告しました。
しかし、これに関しては前回の記事にてラジカル機構にこだわっていたMortonらを含む他多くの研究者がベンザインを経由する反応によって得られていると考えました。
この後、同様の反応として1955年にHoltonとNudenbergらがsec-ブチルブロミドまたはtert-ブチルブロミドとナトリウムとの反応でイソプレンが得られたことを報告しましたが、決定的とは捉えてもらえませんでした。
一方Mechanism Bは多くの研究者によって信じられてきました。
ここでBryce-Smithらが前回紹介したシリーズ第3報にて用いたラジカルディテクターのイソプロピルベンゼンを用いて同反応を行ってみました。
ここでBryce-Smithらが前回紹介したシリーズ第3報にて用いたラジカルディテクターのイソプロピルベンゼンを用いて同反応を行ってみました。
下の表がその結果です。

なんと、二量体が生成しているではありませんか。表の特徴をまとめます。
- 金属はLi>Na>Kの序列でジクミルの収率が低下していく。
- 温度はどの場合でも室温程度の温度では二量体は生成しにくい。
- Wurtz型カップリング反応がラジカルで進行していることを保証している。
個人的にはここでジクミルが生成していることから前回のMortonらが提唱した反論の1つ
(n-Buラジカルが生じたとしてもクミルラジカルを発生させるよりも水素化リチウムになる方が優位で全てその反応が進行している)
は排除されるのではないかと考えています。さて、戻ります。
1945年にクメンをラジカルディテクターとして用いることができると報告したKharasch, McBay, Urryらは、ラジカルが生じた場合定量的に二量化すると述べています。Bryce-Smithらもこれに基づいて考えました。
n-Buラジカルが生じてクメンからクミルラジカルが発生していることから、カゴ効果からn-BuBrやn-BuLiによって解き放たれていると筆者らは考えました。これらから筆者らはハロゲン化アルキルとアルキルアルカリ金属化合物との反応やWurtzカップリングの機構は以下のようであると提唱しています。
(n-Buラジカルが生じたとしてもクミルラジカルを発生させるよりも水素化リチウムになる方が優位で全てその反応が進行している)
は排除されるのではないかと考えています。さて、戻ります。
1945年にクメンをラジカルディテクターとして用いることができると報告したKharasch, McBay, Urryらは、ラジカルが生じた場合定量的に二量化すると述べています。Bryce-Smithらもこれに基づいて考えました。
n-Buラジカルが生じてクメンからクミルラジカルが発生していることから、カゴ効果からn-BuBrやn-BuLiによって解き放たれていると筆者らは考えました。これらから筆者らはハロゲン化アルキルとアルキルアルカリ金属化合物との反応やWurtzカップリングの機構は以下のようであると提唱しています。

カップリング反応そのものは、(3)と(6)ですね。
よく言われているSN2反応が(6)ですが、(3)はラジカル反応ですね。
すなわち、Bryce-Smithらの実験により
ハロゲン化アルキルとアルキルアルカリ金属化合物との反応またはWurtzカップリング反応にラジカル機構が存在する
ことが提唱された訳です。
終わりに
以上、ハロゲン化アルキルとアルキルリチウム種との反応についてご紹介しました。
実はWurtzカップリングについての反応機構については長年議論の余地があり、現在も解析が続いているものです。
今度現在における状況についてまとめたいと思いますが、まずはふかいふか~い歴史についてご紹介しました。
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