Lancifodilactone G Acetateの合成研究(2)

前回記事(Lancifodilactone G Acetateの合成研究(1))ではモデル化合物について紹介させて頂きました。
今回はこれらの知見を元に、実際の本基質を合成した連報の論文2報目についてご紹介します。

紹介論文

Asymmetric Total Synthesis of Lancifodilactone G Acetate. 2. Final Phase and Completion of the Total Synthesis
DOI: 10.1021/acs.joc.7b02917

合成標的

合成標的については前回の記事にて書きましたが、再掲させて頂きます。

前回は下の化合物を、今回は上側2つの化合物を標的(実際には左上ですが)にしています。

逆合成解析

筆者らは標的化合物を合成にするにあたり以下のような逆合成を行いました。


結合、骨格を作り上げる際の反応については後々説明するのでここでは想像して頂くこととします。
CDEFGH環はモデル化合物の前報にてその構築方法について言及されてます。
この記事冒頭または最下部より飛べる前回の記事に飛んで確認してください。
前回の記事内でも書きましたがZhen YangはこれまでAB環を有する類縁化合物を多く全合成してきました。
そのため、AB環の構築には圧倒的な自信と信頼があったと考えます。
それと前報を合わせますと逆合成解析を行うと上のようになるのではないかと思いました。

不斉反応の開発

筆者は最初に(R)-carvoneを出発原料にしてキラルプール法でのDの合成を試みました。
しかしながらBC環の構築まではできたものの最後の官能基変換が低収率であったため、不斉Diels–Alder反応を開発し、それを用いた不斉全合成を行うこととしました。
(キラルプール法については論文参照。また、論文中には各所に誤植があるので注意w)

まず、不斉Diels–Alderの開発を行うべく各種触媒と条件の検討を行いました。

マクミラン触媒を用いた場合には高収率で環化成績体を与えるものの、不斉は発現しませんでした。
というのもジエノフィルの反応性が電子求引性基が2つついているために反応性が高く、これを制御しつつ立体選択的なDiels–Alder反応を実現することが難しいのです。
そこで、コーリーのオキサザボロリジン触媒を用いたところ、高い選択性で目的物を入手することに成功しました。
この内容については既にDiels–Alder反応の論文として報告されていますので、そちらもご覧ください。(気になる方はこちらから

BC環の構築

不斉Diels–Alder反応を開発し、高収率・高立体選択的にC環前駆ユニットを有する化合物を合成した筆者らは、BC環の構築検討に移りました。

実験項を元にDiels–Alder反応の収率と鏡像体過剰率は記入しました。
おい!最適条件無視するなや!って思っちゃいましたが、これジエンを66 g、ジエノフィルを53 gのスケールで反応行っているんですね。

目的物の得られた量はなんと93 g、すげええええええ。。。。


そのスケール感にはおそらく触媒側を量立ち上げるのがもったいなかったのかと思います。
核間位への水酸基をさりげなく縮環をシス縮環にしながら導入していますが、これはこれまでZhen Yangが培ってきた様々な類縁体の合成研究で用いてきた常套手です。
その後シクロプロパン化と続く環拡大反応によってBC環を無事構築し終えました。

DE環の構築およびPK反応前駆体の合成

これ以降の反応はモデル化合物の合成からいいところは使ってという形で進んでいる印象です。
それではスキームを。

変化している点といえば、もともとDiels–Alder反応の時から引っ張ってきているカルボニル基を有する基質を用いるため、シリルエノールエーテルとのカップリング反応を経由していくことくらいでしょうか。
最初のグリニャール試薬を用いた増炭反応は筆者らもモデルを図示して説明をしていましたので、学ぶも計算で簡便な分子モデルを作って考察してみました。
(配座探索はMMFFで行い、最後のエネルギーだけB3LYP/6-31G*です。)

第一安定配座群の1例

第二配座群の1例

骨格自体の安定配座を求めていくと、お示しした第一配座群からカルボニルが反対に向くようになるフリップした第二配座群との間には約4 kcal/mol程のエネルギー差がありました。
もちろん反応するときは遷移状態間の比較ですので完全比較はできませんが、この時点でこれだけのエネルギー差があるというのは大きなものです。
従って配座間のことを無視してこの選択性を説明できないか考えることとしました。
したがって、第一安定配座群の一例を用いてグリニャール試薬の攻撃方向を考えてみます。
Bülgi–Dunitzの攻撃角から判断しても学ぶの感覚的には記載の立体化学にはなりそうでしたが、せっかくなのでLUMOを計算してみることとしました。
下にお示しします。

第一配座群の1例のHOMOパターン1

第一配座パターンの1例のHOMOパターン2

得られた生成物を与えるのはパターン1の上側から攻撃したパターンです。
これはいかにもって感じがしますね。
では180°ひっくり返したパターン2の方はいかがでしょうか。
まず、シロキシ基が大きく遮蔽していて近づきにくそうですね。
また、近づいてきても、シロキシ基の酸素のn軌道に由来する逆位相の軌道が存在するため、グリニャール試薬が近づくのに不利であることがわかります。
ぱっと挙げた簡単な理由を持ってしても今回の生成物が得られたことはもっともらしいのかなと学ぶは思いました。
反応などの考察はこの辺にして先に進みます。

Lancifodilactone GおよびLancifodilactone G Acetateの合成

最後にA・FGH環の構築に挑みました。
最初にFGH環の構築についてです。

PK反応についてはすでに十分モデル化合物の前報にて述べているので割愛致しますが、本基質でもできて良かったね!というコメントはありますね。
収率がbrSMに変化しているのがB環部があることの影響と言えましょうか。
(個人的には核間位のTESO基だと思っています。)
その後の合成についてはモデル化合物の合成の知見を存分に生かし、FGH環の構築に成功しました。
実はH環のメチル基の導入には苦労していまして、最終的にこの段階では導入せずにA環を先に構築することとしています。
ではA環構築検討を。
筆者らはこれまでもA環構築を行ってきたのでそんなに心配していなかったのではないかと予想しています。
しかし、ここで苦労することになろうとは・・・。
では筆者らの苦労をお見せしましょう。

なんかもう許したげて~って感じの苦労の仕方ですね。。。
このテーブルを載せた彼らの気持ち、お察し致します。
この失敗はビススピロケタール部分の不安定さ、シクロペンタン環を有していることに起因しているのかなと思います。
では、筆者らはこの苦労をもとにどう設計を変えたのでしょうか。以下に続きます。

まず述べるべきはBn基除去しただけでうまくいったのかよ!ってところですね。
意外とこういうこと多いんですよね。
個人的な考察としては、画面上側を遮蔽していたBn基を除去することで配座が変化し、H環ないしはF環のカルボニルα位のプロトンの酸性度がカルボニル二面角が相対的に変化することで化合物が安定化したのではないかと考えています。
その先の脱水を経て、Eschenmoser試薬を作用させた後のオレフィン化が重要です。
国嶋試薬を用いています。
大事な試薬なのであえてスキームに書かずに別に示します。

比較的温和な条件かつ高選択的にジメチルアミノ部位からの求核攻撃が起こるため、副反応が起きやすいような今回の基質にはもってこいなわけですね。学ぶは学びました。

では最後の仕上げと行きましょう。

ケトン部を構築し、水素添加反応を行ったところ奇跡的に全て欲しい立体化学で得られました。
(実は先のCDMT使った反応の後に水素添加反応やってみたらそうなっちゃったと筆者らも驚いています。それをここに活用。)
しかしながら、最後のエノール構造がどうしても単一で得られないんです。
筆者ら曰く、酸性・塩基性双方においてケトン構造を有する2つのエピマーとの混合物になってしまうとのことでした。
そこで筆者らは戦略を変えます。エノールアセテートから加水分解するルートです。

3工程でエノールアセテートへと誘導し最後の反応を行いましたが、構造不明の化合物を与えるか全く反応しないかのどちらかだったそうです。
筆者らはこれを元に計算化学を用いた解析を行いました。
その結果、Lancifodilactone Gの骨格に近づけば近づくほど、エノール構造とケト構造とのエネルギー差が小さくなることがわかりました(そのものでも1 kcal/mol以下)。
以上のことから今回の結果はもっともらしいと位置づけています。
一方で天然物の構造をなぜ単一で合成できなかったかなどについての言及はされていません。

そこで学ぶなりの解釈を述べます。

本連報に対しての学ぶの解釈

まず第一にLancifodilactone Gの単離についてですが、実は一回構造訂正が入ってます笑。
というのもX線の構造を単離者が読み間違えたそうです。
読者からの指摘により気がついたとCorrectionには書いてありました。
しかし、今の話でお気づきになられたように、この化合物X線で結晶で取れているんです。
また、NMRも単一のNMRが存在します。
そこで学ぶからは何個かの解釈を提示させて頂きます。

①そもそも単離者がケトン体をもってこれていない
まずこの可能性が挙げられます。
通常、エノール構造を持つ天然物など容易には想像つかないのでケトン体を取りこぼすことはほぼないとは思います。
しかし、Zhen Yangが合成した方法は最後の部分を見ると生体内で起こりえそうな部分をそのまま考えており、漏れは少ないかなと思います。
(エノールアセテートへの求核攻撃ルートなどは考えられますが、生体内でのそういった反応が加水分解酵素以外にはなさそう・・・。あとはアセチル基がさらに水酸化されて抜けるか、もっと別のエステルで加水分解されやすいなど。)
また、単離者が単離したこの化合物の類縁構造体は多くがZhen Yangが全合成しており、あえて取っておいているなんてこともあるのではないかという仮説が1つ。

②Zhen Yangは全てのことを鑑みてあえて天然物の構造が単一で合成できなかったことに触れなかった
天然物の構造を単一で合成できなかったのになんでそんなにあっさりしてるの?
学ぶは思いました。
学ぶとしては最初のケトンとエノールとの変異を行う反応と計算だけで十分であったのではないかと考えましたが、エノールアセテートからの誘導も試みています。
これは生体反応などの他の可能性を考えた上でつっこみどころをつぶすことで読者を納得させる目的があったのではないかと思います。
実際、学ぶもこの状態で難しいならばZhen Yangが今回の合成中間体から派生させて誘導させない限り合成は難しいのではないかと感じました。

終わりに

いかがでしたでしょうか。
今回の合成、学ぶ的には少し残念なところもあるのですが、これが単一で合成されるときが来ることがまた楽しみにもなりました。
皆さんいかがでしょうか?←

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