Liebenハロホルム反応(リーベンハロホルム反応)

故きを温めれば新しきを知れるかもしれないということで、古い反応から順番に勉強していくことにしました。ほとんど人名反応の本とか、ケムステとかの有名なものに載っているかと思うので僕のはただの自己満備忘録です。

最初はLiebenハロホルム反応です。

概要

有機化合物の次亜ハロゲン酸塩を用いたハロホルム生成反応をLiebenハロホルム反応と呼ぶ。

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基質としては以下の3つの化合物群が該当する

  1. メチルケトン(CH3CO―)
  2. メチルカルビノール(CH3(OH)CH―)
  3. モノ―、ジ―、トリクロロアセチル基を有する化合物

反応のTIPS

  1. アルカリ水溶液中で反応を行うが、水に不要な場合はジオキサンかTHFを共溶媒として用いることが可能。
  2. ハロゲン源としてハロゲン分子が用いられるが、フッ素分子は反応性が高すぎるため適さない。
  3. 立体的な要因を反映するため、嵩高い場合はトリハロメチルケトンで止まる。
    ハロゲン化と他のアルキル基の開裂などの副反応を伴うことがある。

開発経緯

Liebenハロホルム反応といえど、最初はLieben自身が反応を開発したわけではありませんでした。
1822年にG.-S. Serullasによってヨウ素とアルカリのエタノール溶液を混ぜたところ、沈殿が生じたことを報告しているのです。しかし、このときSerullasはこの沈殿を炭素のヨウ化水素塩として考えており、これがヨードホルムであることには気づきませんでした。

また、1832年にはJ. Liebigがクロラールと水酸化カルシウム水溶液を混ぜてクロロホルムを得ました。

最終的にA. Liebenが1870年に多くのカルボニル化合物とヨウ素とアルカリとの反応を調査した結果、ヨードホルム反応の規則が見出されLiebenハロホルム反応として知られるようになりました。

反応機構

メチルケトン部を持つ基質に対して、水酸化アルカリと塩素分子が作用した場合の反応機構を記します。

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カルボニルα位に活性な水素がある場合に、塩基によって引き抜かれた後、ハロゲン化剤によってハロゲン化されます。これがトリハロアセチル基に変換されるまで起こります。
最後、水酸化物イオンが求核攻撃してトリハロメチルアニオン種が脱離し、生じるカルボン酸の酸性プロトンを奪うことでこの反応は完結します。

反応のまなぶの解釈・疑問点

本反応はモノハロメチルケトンやジハロメチルケトン、ないしはメチルカルビノールにも使えるという点がまず素晴らしい。
そして、ハロゲン化剤自体の変更も理論上変更可能のため、今後もっと温和な条件の開発へと応用されていくのではないかと予想しています。
さらに、塩基にアルコキシドを用いることで、エステル交換likeな反応を起こすことができるため、tBuOK/tBuOH系を用いることでアセトアミド→Bocの変換にも使えるのでは?と感じました。
この反応の反応機構はお示ししたような機構がよく書かれているのですが、一般にトリハロメチルアニオン種からはカルベン種が生じることが知られているため、そのような副反応が報告されている論文がないのか気になりました(もし見つかればご紹介します)。

反応が使用されている実例

1968年にS. W. PelletierとS. Prabhakarはステロイド系天然物であるisoiresin, dihydroiresinおよび isodihydroiresinの合成研究において、アセチル基の酸化によりカルボキシル基を構築しました。

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S. W. Pelletier, S. Prabhakar, J. Am. Chem. Soc.196890, 5318–5319.
DOI: 10.1021/ja01021a074

この反応において、アセチル基もメチルケトン部位を有していますが反応していません。
理由については、まなぶにはわかりませんでした。わかり次第追記します。

ステロイド骨格にとどまらず、この反応の特徴的と言って良い用い方をした人もいます。
1994年に井原正隆先生、福本圭一郎先生はシクロプロパン環上のアセチル基を利用することで四級炭素に直結したカルボキシル基の構築に成功し、それを用いた(±)-Anthoplatoneの全合成および(±)-Lepidozeneの形式全合成を達成しました。

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M. Ihara, T. Taniguchi, Y. Tokunaga, K. Fukumoto, J. Org. Chem.199459, 8092–8100.
DOI: 10.1021/jo00105a028

さらにこの反応の有用性を大きく展開させたと言って良い合成があります。
M.-L. Bennasar, J. Boschらによって1996年に報告されたインドールアルカロイドの全合成です。

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M.-L. Bennasar, B. Vidal, J. Bosch, J. Org. Chem.199661, 1916–1917.
DOI: 10.1021/jo9600058

この反応はトリクロロアセチル基をカルボキシル基等価体として導入しています。この際、Liebenの酸化条件かだと、アセチル基も同時に反応する可能性がありますが、この場合反応機構上あと脱離だけなので、予め酸化されているトリクロロアセチル基を導入すれば先に述べたようなハロメチル–アルコキシ交換反応によってエステルへと選択的に変換できています。

一方、2008年にJ.-N. Heoらは、Aristolactam類の合成に際し、ラクタムユニットを安息香酸ユニットから導くこととし、そのカルボキシル基をLiebenハロホルム反応によって構築しました。

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J. K. Kim, Y. H. Kim, T. Nam, B. T. Kim, J.-N. Heo, Org. Lett.200810, 3543–3546.
DOI: 10.1021/ol801291k

さらに、2014年にM. J. Learらは()-Platensimycinの全合成研究において、側鎖アミド部位の合成にハロホルム反応を用いました。

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S. T.-C. Eey,  M. J. Lear, Chem. Eur. J.201420, 11556–11573.
DOI: 10.1002/chem.201400131

 学ぶの感想

比較的構造上安定な、安息香酸系ユニットを合成することのできる有用な手段とも言えると思います。

また、以下に示すように隣に全炭素不斉中心を有するような化合物のカルボキシル基の導入へも、可能かと思いました。

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また、合成上次に示すような窒素化合物関連の合成変換も可能と考えられます。

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こういった新しい変換法が見つかったらまた例の中にご紹介していきます。
いかがだったでしょうか?
反応の他の応用方法などもこれから提案できたらと思います。

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